顧問の入院2

S顧問が、退院をして暫くの間 息子さん一家と生活をした後、独居老人の生活に戻られた。
携帯電話で連絡が付きますし、警備会社と契約もしていて不測の事態は何とかなる体制でした。日常は、介護保険によるホームヘルパーさんや訪問看護による社会福祉制度で日中はカバー出来ると、身内に迷惑を出来るだけ掛けずに過ごしたいと大正12年生まれの気丈な世代らしい姿勢でした。

8月27日の8月最後の日曜日に自宅の地下室へモノを取りに行かれ、上がる時に左肩を骨折され地下に転落したらしいです。
左肩骨髄に癌が転移していて骨折する可能性のあることを退院する際に説明は受けていた様で、手摺を持って体重を掛けた拍子にもろくなった骨を骨折して、階段を落ちたらしくそのまま動くことが出来なくなった様子です。

息子さんのお嫁さんが、電話をしてきて、自宅の電話と携帯電話のどちらにも出られないことに不審を感じられて鍵をもって訪ねて来られた。
息子さん達一家は、東京勤務であったのをお母さんが亡くなられたのを潮に大阪勤務を申し出られて、お父さんの自宅から歩いて5分くらいのマンションに引越しして来られていたのです。

警備会社との契約は、不審者の侵入に対しては効果 的であったとしても、そうである以上その解除方法を知る人だけにしか家宅侵入できなくなっています。
お嫁さんが孫さんと一緒に訪問して地下で倒れている顧問を見つけて救急車を手配し一命を取り留めました。
血だらけになったおじいちゃんを見て孫さんは泣いたそうです。

家は、一人で住むための工夫は出来ますが、本来一人で住む様にはなっていません。
息子さんの一家が近所に移り住んで来てくれた事が結果 、充実した社会制度の隙間を埋めてくれたのです。

S顧問が、二度目の入院をして余命宣告を受けていたことも、骨髄に癌が転移していた事も改めて知りました。
見舞いに伺い、「今度こそ息子さん一家と同居されんといけませんな」と生意気な口もきいてきました。
奥さんに先立たれた先生にとって息子さんご一家が近くに居られることは、心強い事でしたし、元々息子さんも一緒に住むつもりで東京から転勤を申し出た訳ですから。

家の中での事故は、以外に多いと聞きます。階段での上がり下がり、段差や風呂場での転倒など、携帯電話や福祉電話が付いていてもその近くに居るか、携行していなければ文明の利器も役には立たないのです。

こんな時に同居家族のありがたさや、身内のありがたさを思い知り、家庭の重要性を再認識させられます。私達の関わらせて頂く住宅の仕事は、構造や意匠や設備の他そこに住まわれる家族の生活の在り方(ソフト)にまで係わってきます。
建築屋の仕事は、自分達が関係したご家族が、安全で平穏に暮らして頂く事こそ本意です。独居老人であったS顧問の緊急入院を参考に我々も、家庭に潜む危険とその連絡方法を改めて考える切っ掛けにさせて頂こうと思っています

2006.9.02