耐震構造計算偽装事件

地震に対する建物の耐力が不足している建物が発覚し大きな社会問題となっています。
こんな問題が出るたびに一番気にかかるのは、この建物の建築に係わった職人さんたちの気持ちです。

日本のブルーカラーの中で、最も危険な仕事と言える建築・土木作業員。年間の労働災害の死亡率の最も高い土建業。
その危険を冒してまで作り上げた仕事は、完成した建物を振り返り見上げた時に少なからず報われるはずです。

耐震力の無い建物の取り壊しが始まりだしました。産業廃棄物の中で建築廃棄物は、発生量 が飛びぬけて多いため、建物の“長寿命化”が叫ばれています。
どんなベテランの職人さんの技を駆使して建てられた建物も壊せばただの“廃棄物”に過ぎません。完成した時点で胸を張って見せた職人さんだって10年、20年して汚れた建物を見ると少し伏し目勝ちになるものです。
しかしましてや、ホコリまみれ、泥まみれになりながら、猛暑の中そして寒中に作業をして作った建物が、数年で取り壊しになる様な仕事を本物の職人さん達が“よし”とするはずが無いと思うのです。

住宅の建て替えをさせて頂く時、お施主様より自分が育った思い出の家を壊されるのは寂しいので解体を見るのは嫌だと言われる方が多いものです。
そのお施主様の思いとは違うかも知れませんが、自分が建てた建物を壊される職人さんの気持ちもあまり変わらないと思います。

私達は、そのお施主様のこんな気持ちもあり、我々の安全祈願の姿勢もあり、解体前には必ず、我々の“手”で清祓いをさせて頂きます。

建築の現場には、節目に通常いくつかの儀式があります。
地鎮祭(起工式という場合もあります)・上棟式・竣工式等です。
解体前に清祓いをされるかどうかは通常の工程にはありませんので、するしないは全くの任意です。我々が、したいのは解体させて頂く建物に何人もの職人さんが係わり、何年もの間にその建物で生活されてきた色々な軌跡があるからです。
祓うと言うよりは、それまでの無事を感謝する気持ちの方が大きいでしょう。

“床締めの儀”と言うのも遣っていたことがあります。
これは何かと言いますと、ある時以前に建てさせて頂いた建物の改装工事に入って床下に建材の残り(ゴミ)が捨てられていたことがあったのです。
新築工事であれば、見られていない間に床下にゴミを捨てておけば、後片付けは助かります。ゴミ捨て代も節約でき一挙両得です。
しかしその上で生活をしてきたお客様から見れば、だらしない職人、だらしない管理をした工務店となります。

優秀な大工さんは、その日の作業の終わりしなには必ず掃除片付けをします。
当たり前の事なのですが、そのケジメのつけられない職人さんがいるため“床締めの儀”で床を締める直前にお客様にも掃除の状態を見ていただき、床下にある配管や配線も説明させてもらった上で、清祓いをして床を閉じる様にしたのです。

床下に捨てられた木片等は、白蟻の巣にもなります。ゴミは、人間には、魅力が無くても生物にとっては、絶好の温床でもあるのです。

2006.2.15